かつて「Twist Tunes'」という成人向けPCゲームがあった。
販売元はRustRouge。
活動期間は2006年から2011年とされる。
このブランドが出した商品としては、2010年春のCOMIC1(いち)にて北海道えろげー組合のブースで委託販売された「ほっとめいく」がほぼ唯一のパッケージ販売。
Twist Tunes'を含む残り5点は期間限定のシェアウェアとして販売していた。
同人と企業の半々といった活動実態のせいで、当時のファンですら扱いに苦慮していたと記憶している。
おそらく今から調べても、有志作成のwikiですら解説しているページは見つからないだろう。
ブランドの作風は低価格の抜きゲー。
はっきり言って、価格を考慮しても商品はボリューム不足で、ルート分岐やフラグ管理も簡素なものだった。
それでも辛うじて商売になっていたのは、エヴァ放送以降のエロゲで親のツラよりよく見たダークな仄めかし描写と、.txt形式のおまけファイルに記された膨大な裏設定が、一部の物好きにウケていたのが大きい。
ゲーム自体はこの時代らしくメタフィクションと周回要素を強く押し出しており、例えばゲームのコンフィグをある数値に設定したままキャラ固有エンドを迎えると真エンドに到達するためのフラグが解放される、といった部分がブランド特有のカラーではあった。
いつも最低限の展開でどんでん返しを提供してくれる制作グループだった。
言ってみれば、「生まれたのが早すぎたARG」とでも呼ぶべきかもしれない。
そうした知る人ぞ知るイロモノブランドが世に出した最後の作品こそが、「Twist Tunes'」となる。
主人公は四国の架空の離島に転校してきた男子高校生。
そこで出会った風変わりなふたりの少女たちと共に、学園祭に向けた作曲活動を通じて交友を深めていく……というのが大まかなストーリーとなる。
当時まだ流行中だった軽音部アニメよろしく「小室」「木根」の苗字を与えられた登場キャラたちにはずいぶん香ばしいものを感じたが、プレイを始めればすぐにいつものRustRouge作品らしい軽妙なかけ合いを楽しむことができた。
この無難な作品が今なおカルト的に語られる所以は、こいつが「あまりに普通のゲーム」だったというところにある。
エンディングは少女ごとの個別ルートとハーレムの合計3種。
作曲パートの3章までが共通ルートで、学園祭でのボーカルに少女の誰を選んだかで4章の個別ルートに分岐する。
ハーレムルートだけは個別ルートのCGをすべて集めたら解放される隠しルートだったが、こちらは選択肢ごとのセーブデータを用意しておけば容易に進めることができた。
この手のゲームをご存知の方なら分かると思うが、これはADVとして平凡すぎる。
まだ見ぬ真エンディングを求めて、数少ない有志たちは狂ったように解析に乗り出した。
しかし調べたところで、現れたのは「これがこのゲームのすべてです」という残酷な真実だけだった。
マスクデータには未使用のCGもボイスも無く、変数すら通常プレイで使われるものがすべてだった。
そんな顛末だから、まだ希望を捨てきれないユーザから「初期バージョンでは真エンドが実装されていた」という噂が出回るのも当然のことだった。
……ところでパッケージに載っている少女だが、このふたりが全チャプターを通じて登場するメインキャラだ。
緑のロングヘアの「小室 桂」のボイスにはK1-0.wavからK4h-56.wavまでの音声ファイルが割り当てられ、水色のツインテールの「木根 那穂子」 はN1-0.wavからN4h-46.wavとなっている。
当時、この命名規則に違和感を覚えたファンがいた。
「K1-0.wav」を例で挙げるなら、これは小室 佳(K)の第一章(1)に収録された1番目(-0)のボイスとなるのだが、0と1が食い違っているのがお分かりだろうか?
慣例に従えば、一番目の章に収録された最初のボイスは「K0-0.wav」となるはずだ。
この不可解なナンバリングから、"幻のゼロ章"の存在がまことしやかに語られるようになったのも仕方のないことであった。
また、このゲームでは主人公とふたりの攻略対象とは別に、4人目のキャラクタの存在が示唆されている。
たとえばパッケージの少女たちの背後、向かって右側に置いてあるベースは作中に登場しない。
さらに完成したスコア譜にはセカンドギターとベースのパートが存在するが、佳はファーストギターで、那穂子はシンセ、主人公はドラムを担当するため、こちらも本編描写との矛盾が生じている。他にも主人公が合宿中、入浴していたヒロインと出くわすCGには、4本の歯ブラシが差してあるコップが描かれる。
主人公がグループに加入したときのやり取りもどこかぎこちない。
ヒロインたちと同棲するカットで、すでに二段ベッドが埋まっているため、那穂子は主人公が床で寝ることを提案してくる。しかし翌朝のシーンでは、主人公がブランケットを敷いたソファの上で目覚める描写が挟まれる。それに対して佳は「フケツです!」となぜか怒りを露わにする。
そんな常に画面外にいる"4人目"のセリフと目されるのが、ハーレムルートの最後だ。
未明の波止場で船を待つ主人公が描写され、ここで初めて「彼」がどんな姿をしていたのか明らかになる。
その後ろ姿を画面いっぱいに写しながら、モノローグが流れていく。
「音楽は鳴り止んだ。僕らのセッションはこれで終わり。」
「色んな宝物をくれたきみたちは、同じくらい僕から奪っていった。」
「ここでもまた奪われてしまうんだろうね。」
「でも、今回はひとつだけ違う。」
「ここでは僕の気持ちが全てだ。」
次のカットでは、波止場を離れていく船を海面から見送るCGが表示され、主人公が島に残る決意をしたことが暗示される。
これが4人目のモノローグだとしたらどうだろうか。
自分以外のふたりと関係を持ち、そのまま島を離れようとする主人公。
今までの視点がすべてこの「4人目」だとしたら、彼女はずっと主人公の視線の先を追っていたことになる。
カットシーンで映る主人公の背中は、どこか疲れているように見える。
導入のシーンで持っていたドラムスティックは無く、荷物も最小限で、何かから逃げてきたような有様だ。
彼の背中はモノローグの進行とともに拡大され、最後の一瞬、彼が振り向いたのが分かる。
そして、次のカットでは海面からのカメラワークだ。
ここから先の展開も、主人公視点だと思うと別の解釈となる。
見たところ沖合に流されたのだろう。すでに体は離岸流に捉えられて、常人では到底助からないシチュエーションに思える。
最後にひとつ。
このゲームは全キャラがひとりの声優によって演じられている。
そのせいで最後のモノローグも、佳と那穂子のセリフも、十分に演じ分けができていない。
おかげで何かを訴えかけるような告白シーンや、夜中に主人公のために手荷物をまとめる佳たちも、すべてモノローグの人物によって演じられていると分かる。
このゲームにおいて、彼女たちの本当のセリフをプレイヤーが目にする機会は用意されていない。




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