ノベルバという小説投稿サイトを御存知だろうか。
最大手ほどではないものの、定期的なコンテスト開催や読み上げ機能の実装など精力的な展開を続けているwebサイトだ。
そのノベルバだが、かつてスマホ向けに小説検索アプリを配信していた時期がある。
2018年の話だ。当時はどの小説投稿サイトもノウハウ不足で作りが悪く、特にカクヨムなんかは公式アプリじゃ検索すらまともにできない有様だった。
各運営の利用規約もまだ甘い時期で、たいていのサイトが外部ツールを経由していてもアクセスできたから、こうしたグレーゾーンの使いやすいアプリは歓迎された。それこそ、5chに情報交換のスレが立つ程度には流行っていたと記憶している。
ノベルバのアプリの場合は独自要素として、ちょっとした小説の投稿機能が付いていた。
投稿先はノベルバ公式サイトのみ。過疎でろくに閲覧数も稼げず、当時のアプリからはコンテストの参加申し込みも出来なかったから、本当におまけ程度の機能だった。
あるときアプリの新着ページを眺めていると、ひとつ目につくタイトルがあった。
「さよなら集」
ジャンルはファンタジーだったと思う。
表紙は無く、あらすじも「記録」のひと言。
何から何までデフォルト設定のままで、率直に言うなら、ひどく手抜きじみた見てくれの作品だった。
章題は3ケタの数字で、各ページには日本人にありがちな苗字と、簡単な一文が記されていた。
「214:
杉山 交通事故 温室に椅子ふたつとテーブル。黒い背広の壮年男性」
「602:
平岩 膵臓癌 昼の川岸に向かって。中学生時代の知り合いの少年」
だいたいこんな具合だ。
更新は不定期で、2日連続で投稿されることもあれば、2週間ほど間が空くこともあった。
モキュメンタリーという言葉が普及する前の時代だったこともあり、公開された分を全話読んでもコンセプトが見えにくく、継続的に読んでいる人間はほぼ居なかったと思う。
各話はおおむね同じ構成だった。3ケタの章題。氏名、生老病死、場面、人物紹介。
内容自体に規則性はなく、あえて言うなら穏やかな場所と1人の人物が紹介される組み合わせが多かっただろうか。
ただ、章題の数字が日付を指していることはすぐに分かった。
3月中はずっと2○○番と3○○番が投稿されていたから、あまり書き溜めもせずに日記感覚で投稿していたのかもしれない。
嫌な予感がしたのは9月ごろだった。
「824:
長谷川 自傷 夕方のマンション。髭のある老人」
この記述を読んだ翌日、ある事件がニュースに載っていた。高校生が自宅で自殺したというものだった。
死亡した人間の氏名は長谷川。
それからは憑かれたように新聞やネットニュースを調べあげた。
病名付きの章の人物名はプライバシー保護されていて見つからなかったが、事件の被害者はたやすく見つかった。
章題の番号と事件の日付は多少のズレがあったが、事件の発生月と被害者の名前が一致することが10件以上も重なることはないだろう。
事件はすべて単一の県に集中していた。きっと、そこにこの作品の著者がいる。
どうして死人のことを記録しているのか。後の記述は何を指しているのか?
数年でサイトもリニューアルされてあの作品も消えてしまったが、今もときどき、死にかけの人々の前に現れては「天国」の様子を尋ねる怪人のことを考えることがある。
ここからは私の考察となる。
ノベルバというアプリを調べたところ、2015年初頭にweb小説の検索サービスとして配信され、2017年8月から投稿機能が追加されていた。
2018年中ごろに大幅なリニューアルが加えられ、現在ではアプリ版の運営は終了している。サービス継続中のweb版でも検索したが、上記の作品は存在を確認できなかった。
よって以下は記述を基にした私の推測となる。
結論から言うと、「さよなら集」の作者は、臨床心理士か、リハビリセンターの職員なのではないだろうか。
調査のきっかけとなった9月の事件は、「さよなら集」では8月の日付となっている。
このギャップは、自殺の前にカウンセリングを受けた日付と解釈すると辻褄が合う。
他の事件の被害者も、死亡事故以外で実名報道するとは考えられない。そのため、上記の作者は訴訟記録から調べたと考えられる。
民事裁判においては高次脳機能障害検査や心療内科での診断結果を参照する例が多いため、臨床心理士であれば、同一のスタッフが交通事故・重度疾病・自傷癖のケアを担当する可能性が高い。
添えられた短文はクランケから尋ね訊いた臨死体験の心象風景を記録として残したのかもしれない。




コメント
投稿について感想や考察を書けます。
コメントを読み込み中...